∈「S−CLUB」∋
⇒何れこの気持ちだけ伝えて


 S-CLUBもホストクラブの端くれ…結構、問題が勃発する。
 例えばこれは、そういうものの一つ。
「何でよ…私だけって言ってくれたのに」
 よよ、と泣き崩れる女性…つまり、客。
 大体そういう客は、ホストクラブの何たるかを知らぬままにホストにのめり込み、まるで恋人同士であるかのような錯覚をして問題の原因となる。
 して、S-CLUBでそういう問題を招きやすいのは得てしてナンバーツーのヴィンセントだった。
 
「またヴィンセントか…今度は何と言ったんだ?」
「いや、私は別に何も」
 はあ、と溜息をつくルーファウスに、ヴィンセントは真顔で否定する。
 月一で開かれるミーティングの席でルーファウスは今回のヴィンセントの件を持ち上げると、こういう事には気をつけろ、と注意を促した。
 まあ問題は簡単である。
 優しいホストにめろめろになった客が、恋人同士と錯覚した挙句に、他の客に優しくしているホストに逆恨みをするという…まあまあ有りがちなパターン。
 このパターンをヴィンセントが招きやすいというのは、つまりヴィンセントが恋人関係と錯覚しやすいような言動をしているからということになるのだが、それはハッキリ言えば「優しい」ということだった。
 だからザックスなんかはルーファウスに反論する。
「そりゃオーナー、ヴィンは悪くないぜ。レディファーストは俺らの常だからな」
「いかにも」
 セフィロスも肯定。
 しかしルーファウスは渋い顔をしてこんな事を言う。
「それは理解している。だが問題は、そういう奴に限ってヤバイ事をしでかすというコトだ。数ヶ月前の客なんかは、ヴィンセントが他の客についていただけで剃刀を出したからなあ」
「恐…」
「だろう?私達の仕事はそういうのを踏まえた上での、あくまでサービスだ。レディファーストは結構だが、過剰なのは厳禁だ。良いか、ヴィンセント?」
「…ああ」
 ヴィンセントは取りあえずそこで了解の返答をしたが、さてじゃあどうしたら良いのかという事に関してはさっぱり目処がついていなかった。
 そもそもヴィンセントにとってはそういうのが普通なのだ。過剰な優しさは厳禁だというが、それこそがヴィンセントにとっての「普通」なのだから、そうじゃないただのレディファーストなぞはハッキリ言って「異常」なのである。
 だからこれは、非常に難しい問題だった。
 

→next


S-CLUBトップ
メニューに戻る
INDEXに戻る