∈「S−CLUB」∋
⇒何れこの気持ちだけ伝えて


 
 あくる日、ヴィンセントの顧客がやってきた。
 この客はヴィンセントに随分とご執心で、やはり例の問題を引き起こす予備軍である。
 珍しくフロアに常駐していたルーファウスは、その客がやってきたのが分かると、まだどのテーブルにもついていなかったクラウドに「一緒のテーブルに入れ」と言った。
 だからクラウドは、失礼しまーす、などと言ってそのテーブルに入る。
 途端、客は恋人同士の時間を邪魔されたものだと思い、嫌そうな顔をした。
「はは…」
 クラウドは思わず苦笑してしまう。
 それと同時に、ヴィンセントって凄いんだなあ、なんて感心してしまった。クラウドだって一応ホストの端くれだし、たまの指名なんかでは「可愛い」だとか言われるほどなのに、そんなクラウドにはちっとも興味なんか無いという具合のその客は、どう考えてもヴィンセントだけしか目に入っていないようだ。
 過去、セフィロスのテーブルに入った時なんかは、セフィロスの顧客はセフィロス同様クラウドにも黄色い声を上げたものである。
 それを考えると、ヴィンセントの顧客というのはどうも質が違うらしい。
 …確かに雰囲気も、ココだけは何故かしっとりしている。
「ねえ、ヴィン。私ね、今度引っ越すことにしたの」
「引越しか…大変だな」
 クラウドを完全無視した状態で会話は始まっていた。仕方無いからクラウドは一人で、ヴィンセントと客の分の酒を割ったりしながら小耳を立てる。
 実はクラウド、ルーファウスにこう言われていたのだ。
 もしヤバイと思うような言葉が交わされたら、即、阻止しろ!…と。
 だからクラウドは、完全無視されていてもドキドキしていた。
「それでね、私考えていることがあってね、今日は相談しにきたのよ」
「何だ?」
「実はね、ヴィンの部屋も用意してるの」
 ガシャーン……
 クラウドは思わずグラスを割ってしまった。
 はっと我に返って「すみませんでしたっ」なんて周囲にペコペコ頭を下げたものだが、心中ドキドキが止まらない。
 だって―――――――部屋って…一体どういう意味なんだ…!?
 この客はすっかりヴィンセントと一緒に暮らす計画まで立てているんじゃないか、それはマズい。マズいというのにヴィンセントは一向に否定をしない。まあこの時点で「何考えてるんだ、一緒に住めるはずないだろう」なんて言おうものなら客を傷つけることになるからそれはそれで問題なのだろうが、しかしそれにしても問題はもう既に大変なところまで進んでいるらしい。

 

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