∈「S−CLUB」∋
⇒何かあなたに


「条件は悪くない。何せ有名店だしな、高待遇は約束してくれている。しかもその店は今丁度ナンバーワンが抜けたところでな」
「え、でもだからって…」
「別に俺を穴埋めで勧誘しているわけじゃない。実はもう何年もずっと勧誘されているんだ」
「ええっ、ずっと!?」
 そうだ、そう頷くと、セフィロスは小さく溜息なぞをついた。
「S-CLUBにはヴィンもいるしザクもいる…お前も入ったし十分やっていけるだろう。しかし…」
「駄目だよ!そんなの駄目だって!」
「話を最後まで聞けって」
 セフィロスは興奮しているクラウドの額にペシッとツッコミを入れると、話を続ける。
「しかしな、俺にはココを離れられないわけがあるんだ」
「ワケって…どういう?」
 クラウドはゴクリと唾を飲み込みそう聞いてみた。しかしセフィロスはそれには答えずに、どうしたものか、なんてブツブツ呟いている。どうやらそこは秘密の秘密であるらしい。
 とにかくそんな訳でセフィロスはうわの空だったらしく、結局その勧誘に対してどうするかというのをまだ決めかねているようだった。クラウドとしては、離れられないわけがあるのだったら離れないのが当然だと思うし、何しろセフィロスにはS-CLUBにいて欲しかったので、断固として、
「それは駄目だよ!」
 と言うことしかできない。
 しかしセフィロスの方はやはりまだ決めかねていて、クラウドがどうしてそこまで「駄目」だとか言うのかさっぱり分からなかった。何しろセフィロスとクラウドというのは、話をすることはあっても親友というわけではない。タイプからすればセフィロスはヴィンセントとの方が余程近いし、思考的にもそちらの方が近い。
 いっつもザックスと店の掃除なんかをしている新米ホストのクラウドが、何故そこまで自分を留めようとするのか、セフィロスは首を傾げないではいられなかった。
 仮にクラウドが、セフィロスを目標にS-CLUBに入ってきたというのならまだしも、そういうわけではなかったから。
 だからセフィロスはこんなことを問う。
「何故そこまで止めるんだ。俺がいなくなれば、お前だって株が上がるというもんだぞ」
「そうだけど、セフィロスがいなくなるなんて駄目なの!!」
 あんまりにも当然そうにそう言うもんだから、クラウドは躍起になってそう答える。…というか全然答えになってない。さすがクラウド。
「何だお前…随分とハッキリ物を言うんだな。仕事の時と大違いだ」
「なっ…バカにしたでしょ、今!?」
「ああ、したした」
「もうっ!俺が本気で言ってるのにっ!!」
 何だよ、そう言いながらクラウドはプンプンする。セフィロスの秘密を聞いていたはずなのにいつの間にかペースに乗せられていたクラウドは、すっかり興奮して一人で怒ったり激論したりしている。
 そんな様子のクラウドを見て、セフィロスは思わず笑みを漏らしてしまった。
 そう…こんな調子だからS-CLUBはやめられないのだ。
 こんな雰囲気だからこそ、S-CLUBはやめられないのだ。
 誰にも言わないし、言うつもりもない。だけどセフィロスは、こんな個性的な面子の揃ったS-CLUBがお気に入りだった。これといって有名店でもないし、ナンバーワンといったって他の店に比べれば大したものではない。身内だけでバカをやって騒いでいるような変テコなホストクラブだったけれど、セフィロスにとってこの店はとても大切なものだった。

 

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