∈「S−CLUB」∋
⇒何でも言ってくださいね


「店にとって必要じゃなくなっても、私にとっては必要だ。だから、居ろ」
 それはまるで告白なみの言葉で、ツォンを引き止めるには十分な言葉だった。
 そう――――――――だからツォンはココにいるのである。
 ルーファウスがココにいて欲しいとそう言ったから、だからココにいる。
 秘書でも何でもない、ルーファウスのためだけにココにいる。
 S-CLUBに入ったのではなく、S-CLUBがツォンの心の中に入り込んだだけの話……だからクラウドの言葉になど答えられるはずもなかった。
「覚えてますか、ルーファウス様。私が貴方に言ってきたことを」
 唐突にツォンは、そんな事を口にする。
 ルーファウスはしみじみと酒を煽りながらもその言葉に頷くと、覚えてる、とだけ答えた。
 ツォンの言う「言ってきたこと」とは、あの二人で切り盛りして頑張っていた時分のことである。その頃、二人きりで何とか頑張っていたけれど、それでも何がしかのストレスだとか悩みは勿論あった。そういう時はお互い話しあって、助け合ったものである。特にルーファウスの場合は、ツォンに相談するのが常になっていたからその行動も顕著であった。
 そういうふうにルーファウスがツォンに相談を持ちかけたとき、ツォンは必ずこう口にしていたのだ。
 "何でも言って下さいね"
 その言葉はルーファウスに色んな悩みを吐き出させたものである。
 勿論それは今尚同じこと、続いているものだった。
 ツォンがその言葉を言い、ルーファウスがそれを頼り、そしてあの告白並みの言葉が生まれた。だからこそ、今、ルーファウスは酒ペースが落ちるのである。
「私は貴方の為にここにいるのだから、貴方の望まないことなど口にしませんよ」
「…そんな言葉、信じられるか」
 何か言いたそうな顔をしながら、ルーファウスはそう抗議などをする。
ソレを見ながらツォンは、笑う。
「ほら、またそうやって言葉を飲み込むのだから…貴方という人は。――――何でも言って下さいと言っているではないですか、私には」
 真っ直ぐな視線とその真っ直ぐな言葉に、ルーファウスは少し考えているような顔になった。
 しかし少しした後、ポツリとこう言う。
「―――――よそ見なんか…するな」
 そのハッキリしない物言いをしっかりと聞き取ったツォンは、笑顔で、
「はい」
 と、そう答えたのだった。

 

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