∈「S−CLUB」∋
⇒何でも言ってくださいね
「昔が懐かしいですね、ルーファウス様?」
「…何が言いたいんだ」
「いえ、別に。ただ…ちょっと思い出してしまっただけですよ」
昔――――それはツォンとルーファウスが出会ったその頃のこと。
その頃の思い出こそが、今ルーファウスの酒ペースを遅くさせている理由そのものだった。
数年前、それはまだルーファウスがS-CLUBを立ち上げる前のことである。
その頃ツォンはある店で給仕している状態で、今のような裏方ではなく表舞台に出ている人間だった。だからそれは勿論、セフィロスやらヴィンセントやらクラウドやらザックスやらがしている仕事と同じである。
ツォンはその店の中で特に指名度が高いわけではなかった。
しかしそれでも顧客というものを持つぐらいではあり、その顧客からは相当高い評価を受けている状態で、店の中ではまあまあの見方をされていたと言って良い。
それでもツォンはその仕事が別に好きというわけではなかったから、特にこれといってのめりこみでもなかったし、ナンバーワンを狙おうという目論みも全く無かった。つまり、店に対しては向上心が無かったのである。
そんな時分、偵察としてやってきたルーファウスと出会った。
ルーファウスは男であるにも関わらず客としてやってくるという大偉業を成し遂げ、他のホスト連中が「は?」という目で見ているのもモノともせずに、ツォンを指名し続けていた。何故ツォンを指名してきたかといえば、ルーファウスは、ナンバーワンの男とツォンをすっかり勘違いしていたからだ。
見ればすぐに分かるだろうに何故だか勘違いしていたルーファウスは、ナンバーワンとはどういうものか、そのプロのお手前はいかがなものかとツォンに色々なことを聞いてきたものである。それは勿論ルーファウスがS-CLUBを立ち上げる為の参考だったわけだが、そんなこととは知りもしなかったツォンは、ルーファウスという人を「相当おかしい人だ」とそう思っていた。
ルーファウスの質問はその内、詰問に変わり、やがては事情聴取に変わる。
そうして様々な情報を聞き出したルーファウスは、最後にツォンにこう言った。
ウチにこないか?、と。
その一言を聞きツォンはやっとルーファウスがその手の人間であったことを知ったわけだが、だからといってその言葉には何だか頷けなかった。何しろツォンはその仕事が好きなわけではなかったし、向上したいとも思わなかったのだから、また一から店つくりに参加するなんていう面倒なことはなるべく控えたかったのである。
しかしココからがまた強引だった。しつこかった。
未だにナンバーワンと勘違いしていたルーファウスは、それはもうしつこくツォンに付き纏い、更にしつこく勧誘をしたわけである。勿論ツォンはそれから逃れるために色々策を練ったが、それでも尚しつこい。そういう、追って追いかけられてという日々が暫く続いたのでツォンはすっかり憔悴してしまった。疲れ果ててしまった。
だから、本当のことを告げたのだ。
本当は…自分はナンバーワンなどではないんだ、と。
――――――――その告白を境に、ルーファウスの勧誘行為はすっぱりと無くなったのであった。
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