∈「S−CLUB」∋
⇒何でも言ってくださいね
ルーファウスの優雅極まりない部屋の中、ツォンは高級ボトルから高級バーボンなんぞを注ぐと、淹れ立てホヤホヤのそれをルーファウスに差し出す。これ、日常茶飯事。
「悪いな」
本当はそんなこと微塵も思ってもないくせにそんなふうに言うルーファウスに、ツォンは「いいえ」と律儀に返して、ルーファウスの正面のソファに腰を下ろす。
この優雅極まりない部屋の中では、これは良くある風景の一つである。
社長であるルーファウスがいて、秘書であるツォンがいる――――ごくごく当たり前……と思ったら大間違いだったりするわけで。
何を隠そうこの部屋にはちょっとした秘密があるのだ。といっても別に変なカラクリがあるとか秘密の隠し部屋があるとかそういう問題ではない。そうじゃくて、この部屋で二人が繰り出す会話こそ正にワンダーランドだったわけである。
「今日クラウドと話していたな」
「おや、どちらからご覧になっていたのですか?」
「何でも良いだろう。で、何を話していた?」
「いや、コレということは特に」
「…何だ、言えないのか」
ムスッとしたルーファウスは、手の中のグラスをガブリと飲みほす。だもんだからツォンはまた新しくそれにバーボンを注がねばならない。これ、日常茶飯事。
「気になります?」
ツォンはルーファウスを見遣って少し笑うと、そんなふうに言った。
因みにルーファウスはそんなツォンに一瞥をくれる。
このままでいくとルーファウスの機嫌はごくごく悪くなるだろうということは必至…ツォンはそれを分かっていながらも楽しむように、こんなふうに告げた。
「色々聞かれたんですよ。例えば…何故、私がS-CLUBに入ったか…とか」
「なに?」
何故だか反応を示したルーファウスは、それで何と答えたんだ、だとか言い出す。どうやらその会話について相当気になっているようだ。
何故ルーファウスがその部分に拘るのか…それは、ツォンには、勿論分かっていた。分かっていたからこう答える。
「大丈夫、貴方の面子を潰すようなことは口にしていませんから」
「……」
ツォンはそう言ってにっこりと笑ったものだが、ルーファウスは何だか納得いかないような顔をしていた。
「クラウドは疑いもしていませんでしたよ、私が秘書だということを。健気なものだ」
ツォンはそう言い、ルーファウスのグラスを見遣る。グラスは先ほど入れた二杯目から全く進んでいなくて、どうやらまだツォンの出番ではないらしい。出番ではないということはつまり、ルーファウスの酒のペースが落ちているということだが、実はそれは相当珍しいことだった。
そう―――――ルーファウスというのは、実のところ、ザルなのである。
相当飲める。でもかなり酔う。酔うけど飲める。
で、ツォンはといえばそれと同じくらいのザル度だった。
だからこの二人が飲みだすととんでもない事になる。但しツォンはそれほど酔うことがないツワモノだったので、大体泥酔ルーファウスを介抱するのはツォンの役割だった。
まあそれはともかくとして、そのルーファウスの酒ペースの遅さは取りあえず相当なことだったのである。
して、その理由とは。
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