∈「S−CLUB」∋
⇒何時でもどこでも君が欲しい
アンが来たのは2、3度目のこと、勿論指名はセフィロスだった。
セフィロスはその何度目かのアンに対して特にこれといった感情は持っていなかったが、その日のアンはどこか沈みがちでそれをわざと明るく振舞っているようで、それに気づいたセフィロスは何だか初めて彼女のことが気になったのである。
一本のウイスキーボトルから、とくとくと酒を注ぐ。
それを渡すとアンは、ありがとう、と言ってにっこり笑った。
「どうした。今日は顔が暗いじゃないか」
「ん〜そう見える?じゃあ慰めてくれる、体で?」
「何を言ってるんだ、全く…」
本当なら此処で「勿論だよ」と目をキラーンと輝かせて慰めなければならないところなのだが、セフィロスは残念ながらそういうキャラではなかった。というか、S-CLUB自体そういうものを推進しているわけでもなかった。
「ん〜ケチだね、セフィロス」
「何とでも言え」
「ふふ〜。…でもセフィロス、洞察力スルドい。確かに今日、ちょっと落ち込むことがあったんだ」
アンはそう言うと、目前のウイスキーをグッと飲み干し、それからぽつぽつとその事実を語った。けれど顔はそれでも笑顔を絶やさない。
「私は家を飛び出してこの世界に入ったから、もう家には帰れないんだ。だけど今日、お母さんがね……」
ちょっと間をおいた後、アンは続けた。
――――――――――死んじゃったの、と。
「ウチのお父さんは昔から病弱で仕事できない体なんだあ。でね、お母さんはそれを支える為に一生懸命働いてたけど、過労で倒れてまた働いての繰り返し…そんなんじゃ、倒れちゃうよ」
セフィロスはアンをじっと見て、その話を聞いている。それがその時できる最良のことだとセフィロスは思っていたからだ。
「ウチ、家業があるんだ。お母さんはそれと同時に他の仕事もやって二足草鞋だったんだけど、それでも全然追っつかないの。お金、足りないの。…だから私」
「――――この世界に?」
うん、そう頷いてアンは笑う。
そうしてこの世界に入ってお金を稼ぎ、それを父親のために当てようと思っていたんだとアンは言う。けれどそういう気持ちは残念ながら親には理解して貰えなかった。
突然家を飛び出して、突然金を送ってきた娘。それに親は何を思ったか――――――それはやるせなさと、一種の怒りだった。
「どうしてそんなことするのって怒られたんだよね。そんなことじゃなくて家業を手伝って欲しいんだってお母さん言ってたけど、それじゃ絶対にお金なんか足りなかった。だから私、頑なにこの仕事続けてたの」
けれど、その母がこの世を去って、アンは何かを失ってしまったのある。元々は父親の為にと思って始めた仕事だったけれど、その父親も母親が死去したことで親戚に面倒を見てもらうことになったらしい。しかもそれは母親の遺言だったというのだからアンはやりきれなかったのだ。
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