∈心のナイフ∋
癒されたいのに癒されない気持ち
ハーブティ、
アロマのかおり、
優しげな白いカーテン、
ふんわりしたソファ、
暖かい日差し、
ゆったりした音楽。
 
寛いで過ごして良いと言われて俺は此処にやってきた。癒しの部屋だとか言う此処へ。
 
「最近疲れてしまったんです」
 
俺がそう相談したら、先生と呼ばれた女は俺に此処を紹介した。何でも、疲れた人専用に用意している家らしい。その家は、癒しの家。
 
 
 
 
かつて俺には家があった。今までの人生に4つの家。
 
最初は生まれた家。
次は愛する人との家。
その次は独りの家。
そして最後にこの癒しの家。
 
癒しの家には良い香りや見目の穏やかな家具が揃っていた。どれも心が落ち着く配色と香りで実に配慮深いと思う。それらは確かに俺の心を緩やかにし、心穏やかにさせた。
ふんわりとしたソファは触り心地も良くて俺は大層それを気に入ったけれど、そういう感覚はあくまで意識的な感覚であって、心地良さに何時の間にか眠ってしまう俺にはあまり意味のない感覚だったかもしれない。
 
俺はそのソファで眠ると必ず夢を見た。
夢。
 
「そんなところで寝ていたら風邪引くでしょ」
 
それは柔らかいベットの上に連れて行ってくれる母親の姿。
 
 
「もう帰る時間だぞ」
 
それは柔らかなソファに眠る俺を優しく叱る愛する人の姿。
 
「……」
 
その後は決まって独りで目覚める夢を見た。目覚めるとそこはかならず硬いベットの上で、風通しが悪くて立て付けも悪い部屋に息苦しくなる。
 
この部屋は見たことがある、俺が独りで住み始めた部屋だ。

  

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