|
「社長!」
「社長!」
やがて、彼らは私の前に躍り出た。
それを合図に示し合わせたように行進が止まる。音楽隊の演奏が止み、私も歩を止め、その場はまるで時が止まったかのようになった。
「社長就任おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
私は彼らの口元を注視していた。
彼らはパンをかじる歯を剥き出しにして思う存分の笑みを表している。まるで仲間と遊んでいる時と同様に無邪気な笑みを見せると、公式の場にそぐわないほどガサツな動作で私に花束を手渡した。
「……」
花束は、ビビットな色をしている。上品で奥床しい雰囲気など微塵もない庶民の花。これで私の就任を祝おうだのと呆れ果てて物も言えない。
「…有難う」
私は冷静にその花束を受け取った。私にはそぐわない色の花。まるで私の祝辞すら喰らいつくしてしまいそうな忌々しい花。
「…おい」
私はその花束を受け取った後、ふと視界に入ったものに違和感を覚えた。
それは子供の手の甲についた小さな傷だった。
「その傷、どうしたんだ」
気付くと私はそう尋ねていた。少年の手の甲の傷が気になって。
すると少年は屈託無く笑ってこう答えた。
「これっパレードが楽しみで騒いでたら付いちゃったんです。ママに凄く怒られました」
「楽しみで?」
「はい!すごく楽しみでした!俺、お花渡すからどんなお花にしようかって…」
子供はそのまま話し続けていたが、私は既にその言葉を聞いていなかった。いや、聞こえていなかったんだ。
楽しみ?
だからはしゃいでその傷を作ったというのか?
「……」
私は、俄かに腹立たしくなった。
この子供が私に向かってそんな話をしたことにではなく、この子供がはしゃいでいたことについて。
なぜ他人のことにはしゃぐ必要がある?
祝われるべきは私であって彼が楽しむのは間違っている。本来ならば私こそ満たされるべきなのだ。ところが私は、この就任について特別心が高揚することなどなかった。これは当然の流れだし、このようなことでいちいち騒いでいるような人間は馬鹿馬鹿しい。
私には、できない。
はしゃぐことなど、到底。
私はそのやり方を知らないし誰も教えてなどくれなかった。だから私は私の幸せにすら傍観者で何も喜ぶことができないままなのだ。それは私の人生のルールで、絶対に外れてはいけないレールでもあったんだ。
私は……
「こんな花は、嫌いだ」
そのレールから外れることができない。
きっと、一生。
END
←return
|