笑うというのはさも滑稽な動作である気がしていた。
笑う。
筋肉を使って口端を上げる。
時には目元まで皺を寄せて頬の筋肉まで動かす、たったそれしきの行為、これが笑いだ。
「セフィロスはあんまり笑わないね」
そう言われたとき、俺は少なからずムッとした。
笑わないね、というのはどういう意味だろうか。まるで笑わないことは駄目であるとでもいうふうである。
笑うというのは然る時に然るべき動作をするように命じて初めて成立するものだ。だから、笑わないね、なんていうのは間違っている。笑う動作をするよう命令しないのだから笑わないのは当然だろう。
「俺と一緒にいる時も笑わないもんね。セフィロスってどういうとき笑うの」
「別に」
俺は滅多にその動作をするような命令を出さない。それは俺にとって必要ないからだ。
「俺はもっと笑っていてほしいなあ」
クラウドは俺を見て暢気にそんなことを言う。笑っていてほしいなんてどういう了見なんだろうか、俺には理解が及ばぬ。要するにそれは俺に、わざわざ然るべき命令を出せということだ。
「なぜそう思う?」
俺は好奇心からそう問う。
「だって幸せな気持ちになれるでしょ?」
彼はそう答えた。
あの笑いというものはどうやら思った以上に人々に好かれているらしい。なぜそんなものを?俺は考える。たかだか脳から発せられる命令に肉体が呼応しただけのそれが、なぜに幸せな気分にさせるというのだろうか。
俺が笑うと、クラウドは幸せな気持ちになるのだという。それならば試してみようかと、俺は些細な好奇心の一端から「笑う」という命令を出そうとした。
――――が。
「これは…どういうことだ。俺は、笑えなくなってしまったのか?」
長らくその命令を錆付かせていた俺は、笑うということがすっかり出来なくなってしまっていた。脳から体に指令がいかないのか、それ以前の問題なのか、俺にはさっぱり分からぬ。しかしともかくも、俺は笑うというのに類する一切のことが出来なくなっていたのである。
笑う、など必要ないものだ。しかし、いざそれが出来ないとなると、俺は愕然とするしかなかった。俺は本当に、笑うということを"忘れて"しまったのだ。
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